主宰のことば
 
 「万象」主宰・滝沢伊代次は病気のため辞任、発行人で会員作品選者の大坪景章が平成二十年六月から新主宰となった。
 「万象」は沢木欣一・細見綾子の「風」の終刊により平成十四年に発足した。「風」は敗戦直後から平成にかけての五十六年間の輝かしい足跡を俳句史に残した。石川桂郎・原子公平・田川飛旅子・永田耕衣・安藤次男・志城柏・金子兜太・神田秀夫・森澄雄・西垣脩・鈴木六林男・佐藤鬼房・中山純子・林徹・飴山実らの著名な俳人たちはすべて「風」の初期の同人である。
 「文芸性の確立を念願し、生きた人間性の回復、新しい抒情の解放・直面する時代生活感情のいつわらぬ表現を作句上の道標」としたのが「風」である。沢木欣一は、俳句実作の態度、方法として即物具象の写生を求めた。「万象」の滝沢伊代次はそれを承けて森羅万象の生命の輝きを問い求めたのである。そして「古きに縛られず、風潮におもねらず、質実な写生を通じての自由闊達な句風」の確立を掲げた。私・大坪景章は、それらの師系を継承する。
  梅雨の土かがやきて這ふ蛆一つ     沢木欣一
  つかみたる枝より一ト声巣立鳥      滝沢伊代次
  かがやきてくちなは枝を移りけり      大坪景章
 「風」「万象」創刊時の主宰および新主宰の句である。
 「万象」は平成二十三年に創刊十周年を迎える。古くて新しい「万象」は「古人の跡を求めず、古人の求めたる所を求めよ」という芭蕉の「誠」を志す。俳句実作はすべて感動に発する。その感動を自分の言葉で表現するのが技である。気宇壮大に志を高く。(記・大坪景章) 俳壇抄より

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